ナナシス 不完全な4Uが手渡す『The Present "4U"』

 

1. メロディーフラッグ
2. Crazy Girl’s Beat
3. ROCKな☆アタシ
4. 青空Emotion
5. パフェ・デ・ラブソング
6. プレゼント・フォー・ユー
7. カリフォルニア・ガールズ (ドラマトラック)

  

11月29日、Tokyo 7th シスターズより、4Uの単独ミニアルバム『The Present "4U" 』が発売された。4Uは、支配人(プレイヤー)が所属するアイドル事務所「ナナスタ」のライバルとして描かれる。佐伯ヒナ、鰐淵エモコ、九条ウメの3人によって構成される3ピース・ガールズ・ロックバンドである。(Tokyo 7th シスターズ - 4U

『The Present "4U" 』は4Uにとって初のミニアルバムとなる。これまでの4Uの発表曲は4曲だったが、このアルバムには新曲6曲が収録されている。メインボーカルであるウメ以外の二人がメインとなって歌う楽曲も入っており、新しい4Uの一面が垣間見えるアルバムだ。

この『The Present "4U" 』の発売後には、池袋サンシャインシティにてトークセッション&特典お渡し会イベントが開催され、私も参加することが叶った。この記事を書くに至ったのは、このイベントで耳にした「とある言葉」がきっかけとなっている。

この記事ではこの発売記念イベントを振り返りつつ、そこから派生した空想交じりの文章を書き散らしている(いつものことであるが)。各楽曲を詳しく取り上げている訳ではなく、また内容も強引な部分があり、アルバムのレビューとしては明らかに落第点であろうが、一つの読み物として楽しんでいただければ幸いである。

  

 

 

発売記念イベントの話

 

 

12月3日、池袋サンシャインシティの噴水広場ステージにて「The Present "4U" トークセッション&特典お渡し会」イベントは開催された。トークセッションは観覧自由で、誰でも無料で参加することが出来る。一方、特典お渡し会に参加するためには当日に会場でCDを購入し、整理券を貰う必要があった。早朝から整理券確保のために列を作っていた人もかなりいたようである。

私もこのイベントに参加したのだが、満足に参加出来たとは言い難かった。その日の午前中は別の予定があったため、整理券を貰うという動きは出来なかった。更に言えばトークセッションにも30分ほど遅刻しての参加だった。1時間程度のトークセッションだったため、半分を聞き逃した格好である。

トークセッションが終了すると特典お渡し会にイベントは移行する。整理券を持たない自分に参加の権利はない。しかし会場がオープンなスペース(*1)であったため、お渡し会の様子を外から伺うことは可能だった。対面で直接話すことは叶わないが、折角だからとお渡し会の様子を観覧していた。

 

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*1:参考画像2枚。巨大ショッピングモール池袋サンシャインシティの吹き抜けに噴水広場はある。ショッピング中に近くを通る人の目にも留まる。アイドル、ミュージシャンのものに限らず様々なイベントが頻繁に行われているようである。

 

この観覧においては印象的なことが二つあった。一つは、キャスト陣のファンへの応対の良さである。特に九条ウメ役の山下まみさんの応対はとても素晴らしかった。一人一人の目を見て全力で応対する。10秒にも満たない会話の中で全身を使ってリアクションを取る、ジェスチャーをする。この姿に酷く感動して涙が出そうになったほどだ。

そしてもう一つ印象的だったのが、見学中に耳にした前述の「とある言葉」である。実はこの「とある言葉」とは4Uのキャストでもなく、そこに集っていた大勢のファンでもない、全く意外なところから発せられた言葉だった。

イベント中は、ステージ上のスクリーンに「4U The Present "4U"  トークセッション&特典お渡し会」という文字が常に表示されていた。人だかりが出来ているので、近くを往来する人々の目にも留まる。そして、二人組の通行人が、私の側を通った際にこんな会話をしたのである。

「4Uだって。知ってる?」

「いや知らない。というか4Uなのに3人しかいないじゃん」

この会話を聞いたときの自分の心象は、「まあそう思うよな」といった程度のものだ。しかし数日経ってから何となくこの会話を思い返したとき、この言葉が重要な取っ掛かりとなって、この記事を書くに至らせたのである。

 

  

4Uは不完全である

 

 「4Uなのに3人しかいないじゃん」

この言葉に対して、ナナシスを追いかけている人ならばおそらく簡単に回答を用意することが出来るだろう。ご存知、4Uの4という数字には、4人目のメンバーといった意味合いが込められている。4人目のメンバーというのは彼女らの音楽を受け取るリスナーのことだ。これを踏まえるなら、私が取るべき行動は鬼の形相で通行人に駆け寄り、首根っこを掴んで「お前らが4人目のメンバーになるんだよ!」と喚き散らかすことだったかもしれない。(そんなことはない)

しかし冷静になってみれば通行人の意見は的を得ている。4Uなのに3人。その通りだ。不恰好である。不完全である。パッと目にして最初に浮かぶ感想がそれなのだから相当だ。この言葉は、私をやがて次の命題に行き着かせる。それはすなわち、

「4Uは3人では不完全である」 というテーゼである。

4Uを愛する皆さんに殺されないために弁明しておくと、これは4Uの奏でる音楽が劣っているということを示す訳ではない。「4Uはキャストの3人と4人目のメンバーが揃って4Uとなる(完全となる)」とした場合に逆説的に導かれる命題なのである。

突き詰めるとこれは決して4Uに限った話ではない。「4人目のメンバー」 を「リスナー」とシンプルに考えれば、どんなミュージシャンにも当てはまるだろう。要するに、リスナーがいて初めて音楽は完結するということである。あるいはこれは音楽に限らない。小説、絵画、演劇、どんな芸術活動も基本的には鑑賞者というピースが嵌ることでサイクルが閉じると言える。鑑賞者を必要としない、徹底的に個人のために行われる芸術活動も特例的(*2)には存在するだろう。しかしそれはあくまでも特例、特例中の特例と言うべきものである。

リスナーが居て初めて音楽が完成する。「受け渡す者」と「受け取る者」がいて芸術は完成する。これはある種当然のことを言っているに過ぎない。しかし"4U"というバンド名にはその”当然”がまざまざと刻印されている。このことには非常に大きな意味があると考える。4Uがバンド名で真摯にその"当然"を指し示すことの反動として、3人では不完全であるというテーゼが立ち昇るのである。

このことを私は既に知っていたはずだ。当初は私もまた通行人と同じように「4Uなのに3人……?」という疑問を抱いたと思う。しかし4Uの音楽に触れ、ライブにも参加し、4人目のメンバーとして4Uの輪の内側に入っていた(と思いたい)私は、そのことを意識できなくなっていたのである。池袋サンシャインシティでの発売記念イベントという、4Uの内側と外側が入り混じる特異な空間において、外側からの言葉が天啓のように降ってきたという訳だ。

 

*2:例として思い浮かべるのはヘンリー・ダーガーの『非現実の王国で』という作品である。約60年間に渡り執筆されたこの長編小説は、ダーガーの没後に彼のアパートから発見されるまで誰にも知られることがなかったという。(非現実の王国で - Wikipedia

 

  

不完全な『The Present "4U" 』

 

さてこうなってくると、4Uの音楽を聴く際に厄介なバイアスが生じる。「4Uは不完全である」というバイアスである。この状態に陥ると、何から何までそれを示唆するように見えてしまい危険だ。しかしここでは敢えてその偏った見方から新アルバムの楽曲を取り上げたい。

早速こじ付けが過ぎるかもしれないが、偶然で片付けてしまうには惜しいフレーズがあるので耳を貸していただきたい。『1.メロディーフラッグ』の「僕らの奇跡に管制塔は要らない」と「1,2,3で風になって」というフレーズだ。

文字にすれば何のことはない。しかしこれを耳で聴くと「僕らの奇跡に完成度は要らない」、「1,2,3で完全になって」というように聞こえるのである。実際のところ歌詞カードを見るまではそう歌っていると思っていた。

「1,2,3」は当然掛け声であるが、4Uのメンバー数とも一致する。「完全になって」と歌っているように聞こえるが、実際は完全とは言っていない。不完全であることを背理的に示唆していると言える。単なる空耳であることは承知しているが、「4Uは3人では不完全である」というテーゼが脳裏で存在感を示す。

「1,2,3」との関連で言えば、『4.青空エモーション』において「1,2,3,4U」というフレーズがある。4人目のメンバーが揃うことで、完全になるイメージだ。これを上記のメロディーフラッグの対と考えるのはさすがにこじ付けが過ぎるであろうか。

『6.プレゼント・フォー・ユー』は、4Uの3人の絆と関係性が色濃く描かれた楽曲である。これまでには見られなかった3人の明確なパート割りがあり、各担当パートではキャククターのストレートな心情が描かれる。4Uのこれまでの歩みを肯定するような描写もあり、文句なしに素晴らしい曲だ。4Uらしい3人のハモりも1000点満点である。

「4Uは3人では不完全である」という前提で見ると、この素晴らしい名曲はしかし、他の楽曲の中でも際立って不完全である。この楽曲は3人の輪で"閉じて"いるからである。無論、3人の閉じた物語は、4人目のメンバーへと手渡される。4人目のメンバーがそれを受け取る、観測することでこの楽曲は完成する。

楽曲のタイトルを思い出そう。曲名はプレゼント・フォー・ユーである。このユーとは3人がそれぞれに向けたユーでもあるだろうが、4人目のメンバーのことも指していると思える。3人で閉じたそれ自体では不完全な楽曲であるからこそ、4人目のメンバーの存在が強烈に意識されているとは捉えられないだろうか。そして同時に、ここに『The Present ”4U”』というアルバムのタイトルの意味も見えてはこないだろうか。

 

  

アイドルとロック

 

記事の冒頭でも触れているが、4Uというロックバンドは、支配人(プレイヤー)が所属するアイドル事務所「ナナスタ」のライバルとして描かれる。4Uはナナシスという作品においてアイドルの対となる位置に存在すると言ってもいいだろう。

ではそのアイドルとはどんなものだろうか。Tokyo 7th シスターズ総監督の茂木伸太郎氏は公式スタッフ本『ハジマリノヒノスコシマエ』でこのように語っている。

 

少なくとも自分にとっては、誰も居ない下駄箱、遠くから聞こえる吹奏楽部、図書館の揺れるカーテン、真夏に一瞬だけ聞こえなくなる空、高校球児のヘッドスライディング、それらもどうしようもなくアイドルだったりします。

 

この前後で茂木氏はアイドルは『エンタメ』でもあること、『拙く未成熟で輝かしいものの一瞬』でもあるといったことを示唆している。アイドルを定義することは難しい。しかし茂木氏の言葉を受けてその一要素を考えるならば、アイドルは受け手によってどこかに「見出されるもの」ではないかと思う。主体はあくまでも受け手だ。アイドルは偏在していて、受け手の目によって顕在化する。

 

4Uの音楽ジャンルはロックである。ロックの定義はこれまた様々だ。明確な定義は不可能に近いだろう。検索しただけでも色々な意見が出てくる。楽器の編成やサウンド面からのアプローチもあれば、ミュージシャンの精神のあり方から規定されるという声、アメリカの黒人奴隷の歴史を遡る考えもある。

いくつか見かけた中から恣意的であることを承知で、「社会・世間に対する自己主張」という要素を抜粋してみる。内から出でるものを表現する手段としてのロックという見方だ。その場合、アイドルが「見出されるもの」だとすればロックは「提示されるもの」となる。ここで主体としてイメージされるのはロックを奏でる側、アーティストの側である。こうしてみると、アイドルの対として4Uが位置していることがどことなく腑に落ちる。

このロック観の上に立ってみれば、「リスナーに届くことで完全になる」というのはロックにおいて非常に的を得たテーゼである。自らが提示する叫び、パッションが誰かに届くことでロックは報われると同時に完成するのである。

 

  

『The Present "4U"』が名盤になるとき

  

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 (EP1.0~ EPISODE.4U 第4話「ロスト・アイドルズ」後編より)

 

もう一つ、ロックの特性として多く語られるのが、いつの時代にも通用する音楽であることだ。上の画像はEPISODE.4Uにおいて、九条ウメが音楽を始めるに至った際の言葉である。4Uの、ひいてはナナシスのロック観と言えるものだろう。

流行に左右されない、短期的に消費されない、NOT INSTANTなものとしてのロック。この前後で「アイドル」は何も残さずに消えてしまうもの(=INSTANTなもの)として引き合いに出されている。「アイドル」と「ロック」の対立構造はここにも見て取れる。

 

時代を越えても輝きを失わず、永遠に残り続けるためには、いつの時代もリスナーに届き、響いている必要がある。3ピースバンドを完成させる、4つ目のピース。これが絶え間なく循環していくことが重要だ。

入れ替わり立ち替わる4つ目のピースが、その時代その時代で4Uを完成させる。"4U"というバンド名が可視化する不完全で歪な鋳型は、4つ目のピースのために用意された空席だ。彼女達は、彼女達の音楽は、そこに座る4人目のメンバーをいつの時代も待ち望んでいる。

リスナーによって初めて完全体となるという自明の事実を敢えてバンド名に刻んだことには、手渡されることで完成するという音楽の不完全性をアルバム名で示唆したことには、そうした祈りが篭められているのではないだろうか。

永遠であるために不完全体でいることの妙。いつかのどこかの誰かである4人目のメンバーへと手渡され、その都度完成するのが4Uの音楽でありロックでありこのアルバムだ。"4U"というバンド名と『The Present "4U"』というアルバム名に込められた祈りが通じたとき、このアルバムは真の"名盤"になるのではないだろうか。

 

 

 ■参照・関連ページ

 ・Tokyo 7th シスターズ - 4U

 ・非現実の王国で - Wikipedia

Tokyo 7th シスターズ「The Present "4U"」特集|茂木総監督&4Uキャスト(長縄まりあ、吉岡茉祐、山下まみ)座談会 (1/3) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー

We are not instant|Tokyo 7th シスターズ 3rd Anniversary Live 17’→XX -CHAIN THE BLOSSOM- in Makuhari Messe - semillaの航星日記

支配人仲間のせみや氏による記事。3rdライブからナナシスそのものに関する大ボリュームの名文である。全員読んで欲しい。アイドル観が語られている箇所を参考にさせていただいた。

ナナシス 777☆SISTERSの「誰かの背中を押す」楽曲 - くろろのたのしいブログ(仮)

拙稿。「アイドルは受け手によって見出されるもの」というのが何となく伝わるんじゃないかと思う。

 

 

 

 

 

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