ナナシス 『14歳のサマーソーダ』とフラッシュバックサマー

THE STRAIGHT LIGHT <通常盤(2CD)>

THE STRAIGHT LIGHT <通常盤(2CD)>

 

 

Tokyo 7th シスターズの3rdアルバム『THE STRAIGHT LIGHT』が発売となってから早2週間が過ぎました。武道館ライブチケットをSOLD OUTさせたとは言え、知名度的には未だマイナーソシャゲの位置に甘んじているというのが同タイトルに対する個人的な印象ではありますが、今回のアルバム、特にDisc1に関しては、まるで覇権コンテンツかのような余裕と貫禄すら感じさせる完成度でした。

『スタートライン』で777☆SISTERSは《どこかの誰かと比べたりすんなよ》と歌う訳ですが、それこそ自分たちのやりたいこと、自分のたちの信じる道を真っ直ぐに進んできた(ここはTHE STRAIGHT LIGHTとかかっています)からこそ、この名盤が生まれたのだろうと思える程にこのアルバムはナナシスです。そんな彼女たちの躍進はまぐれでも奇跡でもなく運命、来るべくしてここまで来た、成るようにして成った、まさに『大器晩成』という言葉がしっくりくるような気がします。武道館ライブでも最高の瞬間を届けてくれるはずです。

前置きが長くなりましたが今回の記事はそんな『THE STRAIGHT LIGHT』からサンボンリボンの『14歳のサマーソーダ』という楽曲を取り上げて好き勝手なことを書いていくという内容です。元々サンボンリボンに関して書きたいことがありつつも腰が上がらずにいたのですが、この楽曲は何というかそれまで考えていたところにうまくハマったので、これは是非形にしたいと思った次第です。ライブに向けて気持ちを高める、というよりも寧ろ読者を困惑させてしまいそうな程の怪文書ではありますが、この機に投下したいと思います。

 

True or False

楽曲を紐解いていく上で、まずは一次的接触を試みてみましょう。要するに、ナナシスやサンボンリボンに備わっているコンテクストは一度無視して、楽曲それ自体と向き合ってみようということです。 

楽曲のタイトルは『14歳のサマーソーダ』です。サビでは《待って ロンリー・フォーティーン・ソーダ》というフレーズが頻出し、最終コーラスは《君だけが夏だった》で締め括られます。爽やかで明るい曲調に覗く淡さと切なさ。これはサンボンリボン「らしい」というか、サンボンリボンだからこそ出せる味わいだと思います。 

《空き缶の表面伝う夏雫が濡らしたヘブン》。何を食ったらこんな歌詞が降ってくるのか私には到底理解出来ませんが、この楽曲には他にも夏の単語が惜しみなく散りばめられています。ナナシスにおいて夏という季節はおそらく正しいものとして描かれています。言うなれば、ナナシスにおいて夏はTrueです。何故なら、夏は思春期であり、キラキラしたものであり、一瞬の輝きであり、アイドルなのです。そして歌詞の中に登場する[君]もまた夏でありTrueなのです。

一方、楽曲の冒頭では《何もないあの街みたいだ》というフレーズが登場します。Trueとの対比で言えば、《あの街》はFalseであることが示唆されています。そして、楽曲の主人公である少女(以下”少女”)は《あの街》を既に去っていることも読み取れるでしょう。《何もないあの街》で、《君》と過ごした夏だけがTrueだった、というのが少々乱暴ですが私が考えるこの楽曲の大枠のストーリーです。

"少女"についてもう少し考えてみましょう。《胸騒ぎとか向日葵とか 気付けばもう消えてたんだ》という歌詞がありますが、これは"少女"の中のTrueが失われつつあることを示しているように思えます。向日葵は同アルバム内の『ひまわりのストーリー』でも重要なモチーフとして扱われていますし、光に向かい続けるという性質からも、Trueの象徴と言って差し支えないでしょう。

Trueである思春期の出口が見え始め、大人(≒False)へと変わりつつある"少女"。それでも《君》と過ごした夏や《言えなかった言葉》は胸に巣食っていて、夏の到来と共にまるで古傷のように《あの夏》の記憶をフラッシュバックさせる訳です。『14歳のサマーソーダ』は14歳「だった」夏を憂い、Trueで全盛だった過去に想いを馳せるという、曲調に反して非常に切ない心情を歌った楽曲である、というのが個人的な解釈です。

思えば冒頭の歌詞である《急に振り出した雨に濡れた フラッシュバック》は、夏の青空の広がりを感じさせるイントロに反して場面は雨です。1コーラスのラストも《夕立ちが痛かった》と結ばれます。《いつかのリグレット》などやや重いフレーズも登場し、非常に意味深でハイコンテクストな歌詞の楽曲だと言えるでしょう。この難しい楽曲をサンボンリボンが歌う訳ですが、そこにはどんな意味があるのか、はたまた特段深い意味は無いのか、この辺りについては次章で考えていくことにしましょう。

 

H-A-J-I-M-A-R-I-U-T-A-!!

前章で勝手に楽曲の世界観というものを示してみました。その際にはあくまでも楽曲のみに基づいての解釈を良しとし、「ここはClover×Cloverのあのフレーズがさあ……」みたいなことを言いたくなる自分を押し殺してきましたが、ここからはその制約も外して2034年のオタクになりましょう。

サンボンリボンというユニット、ひいてはこの三姉妹を考えるときに重要になると思うのが、『H-A-J-I-M-A-R-I-U-T-A-!!』の《何も知らない子供と夢を捨てた大人の間でまた少しずつ変わっていく》というフレーズです。両者の間で揺れている彼/彼女は、ナナシスが背中を押す対象であり、あるいはナナシスが描こうとする一瞬の輝きであり、アイドルでもあります。それは思春期であり夏であり蝉の合唱であり汗ばんだTシャツであり14歳でありTrueです。

サワラもカジカもシンジュも思春期を生きる少女であり、Trueの領域の中で揺れています。しかし三人は決して同じ場所に位置している訳ではないと言えるでしょう。サワラは《夢を捨てた大人》の側に、シンジュは《何も知らない子供》の側に立っており、そしてその中間、最も純度の高いTrueの位置に立つのが14歳のカジカだというのが私の主張です。

 

いつか、たんぽぽのように

シンジュは《何も知らない子ども》というには大人びている印象が強くあります。しかしEP3.5の『シンジュとふしぎなカエル』において、彼女が悩みを持ち、時に弱音を吐く等身大の少女であることは十分に示されたといっていいでしょう。付け足すならばこのエピソードは最後シンジュの「私もまだまだ子供だな」といった台詞で幕を閉じるのです。

カジカもまた《何も知らない子ども》のような無垢さが印象的であり、シンジュよりも幼いのではないかとさえ思える場面はあります。しかし姉と妹への面倒見の良さと懐の深さは精神年齢の高さを伺わせます。また、後述しますが、EVENT.008『いつか、たんぽぽのように』におけるカジカの振る舞いはシンジュを庇護する存在として十分な説得力を持っています。

さて、《夢を捨てた大人》の側にはサワラがいると書きました。年齢面でもそうですし、精神的な熟練度に関しても他のアイドルを大きく凌いでいることは随所に感じられます。コニーの正体に気付いている節もありますし、その上でコニーと互角以上にやり合う場面すら見受けられます。

しかしこのサワラ観を私に印象付けたのは、EVENT.008『いつか、たんぽぽのように』というエピソードに他なりません。このエピソードは、店番やアイドルの仕事で長らく旅行に行けていないカジカのために、サワラがツアーコンダクターとなって三姉妹でTokyo-7thを回る、という内容になっています。

エピソードの終盤で三姉妹は空港にやってきます。自然と海外の話題になり、「サワラは急にどこかへ行ってしまいそうだ」とカジカが漏らすと、サワラは「カジカが自分くらいの年齢になったらそれも良いかもしれない」と言い出します。

 

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(EVENT.008『いつか、たんぽぽのように』Chapter.4)

 

そんなサワラの言動を受けてカジカは、「春生まれであるサワラはどこかに行きたがっているのではないか、いつか本当に居なくなってしまうのではないか」という胸騒ぎを覚えます。しかしその一方でカジカは「いつか行かせてあげたいな」と話し、シンジュに対しては「仮にサワラが居なくなっても自分がシンジュの側に居る」と言ってのけるのです。カ、カジカお姉ちゃん……

 

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(EVENT.008『いつか、たんぽぽのように』Chapter.4)

 

サワラには他にやりたいことがあるのではないか。何かしらの疑問や迷いを抱きながらアイドルをやっているのではないか。ここではないどこかを、今よりも似合う場所を探しているのではないか。『いつか、たんぽぽのように』はプレイヤーの視点から見ても、そんな想像の膨らむエピソードです。

『たんぽぽ』と聞くとLe☆S☆Caの『タンポポ』という楽曲が浮かびますが、関連の深い楽曲としては《春舞う綿毛のように……》という歌詞のある『H-A-J-I-M-A-R-I-U-T-A-!!』を挙げるべきでしょう。旅路の末に次世代のための種を落とす、というのはたんぽぽの役割性質であり、そこには世代交代があります。それはセブンスからナナスタ、そしてリスナーへの三世代間での継承であると同時に、サンボンリボンにおける姉妹間でのバトンパスでもあるのです。

 

Clover×Clover

上記のエピソードと切り離せない関係にあると思う楽曲が『Clover×Clover』です。命綱を手放し、安定した足場を離れてでも、叶えたい夢のために旅に出よう、という非常に力強く前向きで勇敢な唄というのが私の『Clover×Clover』観です。前述のエピソードの内容や、落ちサビのソロパートがサワラに割り振られていることを踏まえても、この楽曲の主体となる人物はサワラと重ねて考えていいように思えます。

《育った街の空からじゃ果たせない夢があると教えてくれたの》という歌詞があります。ギター1本を背負って上京するミュージシャンのように、メジャーリーグに挑戦するプロ野球選手のように、より理想に近い場所へと旅を続ける、そんな勇ましさをこの楽曲から感じます。

この《育った街》はFalseに近しいものとして描かれている訳ですが、ここに『14歳のサマーソーダ』に登場した《何もないあの街》とのリンクを見出すという解釈も不可能ではないかもしれません。こう言うと『たいくつりぼん』にも《キミが帰る少し前のボクらが住む街》が出てくるけどそこはどうなんだという声が聞こえて来そうですが、この辺りは私の手に余るので逃げたいと思います。

『Clover×Clover』の歌詞は非常に前向きですが、ではその内容が果たされたのか、実際にサワラが旅に出て目的を果たすことが出来たのかと言えば、それはまだであろうと思います。というのも、Tokyo 7th シスターズの少女達が希望の歌を歌うということは、彼女達がその希望を体現しようと現在進行形で駆け抜けていることを示すのです。何故ならば、彼女たちが現在ではなく過去を歌ったとき、それは一瞬の輝きではなくなってしまうからです。彼女達が背中を押す歌を歌うときは、彼女達もまた背中を押される存在なのです。サワラが旅に出ようと歌うときは、サワラは旅に出たがっているのです。いよいよ怪文書じみてきました。自分でもいまいち何を言っているのかわからなくなってきたのでわかった方は教えてください。

 

14歳のサマーソーダ

『14歳のサマーソーダ』に戻りましょう。この楽曲の主体となるのは14歳「だった」少女です。年齢などを考えてもこの楽曲に最も感情移入出来るのはサワラだと言えるでしょう。Trueから離れつつあるサワラだからこそ感じるものがあるのではないかと思います。逆に言えば、カジカとシンジュにはこの楽曲の歌詞はまだ早いと言ってもいいかもしれません。ある意味でこの楽曲はR15指定なのです。

サワラはこの楽曲を歌うとき、果たして何を思うのでしょうか。彼女が抱く理想、新たな居場所、もっと無防備な少女でいられた夏。一つ思い至ったのは、彼女の脳裏にフラッシュバックする14歳の少女とは、勿論14歳だった頃のサワラであるのでしょうが、同時に今現在14歳を生きるカジカでもあり得るのではないかということです。サワラが自身のTrueを振り返るとき、そこにカジカが重なる瞬間があるように思えるのです。

更に言えばこれは他の姉妹にも当て嵌まります。14歳という具体的な年齢が示された楽曲を、年の離れた三姉妹が歌うのです。サンボンリボンがこの曲を歌うのは何となく凄いことだいう気がしてきます。現在進行形で14歳のカジカがこの曲を歌うことをサワラはどう感じているのか。サワラの願望を感じ取っているカジカは何を考えながら歌うのか。14歳になったとき、この曲を歌ってきた姉たちについてシンジュは何を思うのか。三姉妹がそれぞれの14歳を思い返すとき、そこには誰がフラッシュバックするのか。この曲エモくないですか?

 

これという結論もなく中途半端な感じはありますが、この辺りで終わります。結局のところ、ここまでの内容は殆どが想像に基づくものです。実際に彼女たちがこの曲にどう向き合うのか、それを知る術は私にはありませんし、こうして勝手な妄想を繰り広げることもナンセンスなのかもしれません。しかしサンボンリボンが放ったこのキラーチューンは、気の抜けたような彼女たちの雰囲気とは裏腹に、磨き抜かれた強炭酸のソーダ水の如く、喉元に鋭い傷跡を残していきました。こんな支離滅裂な駄文ではありますが、この傷跡に宿った何かの残滓をどうにか言葉に出来ていればいいなと思う次第です。

最後に、サンボンリボンについてだいぶ勝手なことを書いてしまっている点、ファンの方にはお許しいただければと思います。

 

 参照・関連ページ

カザミドリ 坂本真綾 - 歌詞タイム

 晴海サワラ、Clover×Cloverと何処か重なる楽曲。

フラッシュバックサマー 音速ライン 歌詞情報 - うたまっぷ 歌詞無料検索

 記事を書いていたら思い出した楽曲。タイトルに使っています。

 

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