ナナシス『WORLD'S END』と羽生田ミトが目指した世界
- 1. ミトとニコルが目指す場所
- 2. 二人の理想と初期楽曲のギャップ
- 3. 無数のアイドルが蔓延る2030年
- 4. WORLD'S ENDへのカウントダウンとSEVENTH STRIKE BACK
- 5. FALLING DOWNと贖罪
- 6. 新しい世界とそれから
- 7. おわりに
- ■ナナシス関連記事
- ■参照・関連ページ
2017年7月26日、『Tokyo 7th シスターズ』作中におけるレジェンドアイドル、セブンスシスターズより、新曲『WORLD'S END』が発売された。
A.D.2030、イマはまだ夜明け前—— 伝説のセブンスシスターズ、デビュー前(インディーズ時代)の初期衝動。
上記のキャッチコピーの通り、セブンスシスターズがデビューする前の楽曲ということになる。作中における時期としては、2030年1月1日に発表ないしは制作された楽曲だということがトレーラー映像の冒頭から見てとれる。因みに2030年7月7日には『セブンスストライク』という事件が発生し、その約3ヶ月後、2030年10月(31日?)に『SEVENTH HAVEN』が世に出るという流れとされている。
この『WORLD'S END』であるが、アプリ内で公開されたセブンスシスターズのコメントにおいて若王子ルイは『まさに羽生田ミトの音楽』だと言及している。この楽曲を考えるにあたっては羽生田ミトという人物が鍵になると言える。そんな訳でこの記事ではタイトルの通り、羽生田ミトを中心に『WORLD'S END』、更には2030年代のセブンスシスターズの姿というものを考えていく所存である。
(アプリ内 WORLD'S END 特設ページより)
1. ミトとニコルが目指す場所
前述の通り、『WORLD'S END』は羽生田ミトの音楽であるとされている。また御園尾マナのコメントからも、ミトが制作していた楽曲を元にこの楽曲が誕生したことがわかる。
(アプリ内 WORLD'S END 特設ページより)
セブンスシスターズの楽曲の作詞・作曲はその殆どをミトとマナが担っていることから、ミトの思想や精神状態はセブンスシスターズの楽曲に反映されやすいと考えることが出来る。もちろんグループの音楽なのでミトが私物化出来るものではないが。因みに『Sparkle☆Time!!』の歌詞は全員で作詞したようである。
(EVENT.005「夢を、あなたと」より)
この「羽生田ミトの音楽」に関しては、羽生田ミトが持つ夢について考えることが重要になるだろう。これはEPISODE.Seventhにおいてのニコルとミトの幼少期時代の会話がヒントになると思われる。
幼少期、ニコルのゲームのレベル上げを手伝わされるミトは、弱い敵を倒すことに疑問を覚える。ニコルは、弱い敵を倒すことで勇者のレベルが上がり、魔王を倒せるようになり、世界を平和に出来るのだと言う。ミトは、それでは倒した敵や魔王は傷付いてしまって平和ではないと反論する。それに対してニコルは、「みんなを笑顔にするグループ」を作り、ミトの歌で敵も魔王もみんなを笑顔にしてしまおうと発案する。
(EP0.0~ EPISODE.Seventh「幕間~とある楽屋の一部始終~」より)
このエピソードからも、ニコルとミトは『みんなを笑顔にするグループ』を目指していることが伺える。そしてそれは、立ちはだかる敵さえも、まとめて全員笑顔にしてしまうということである。幼少期のエピソードではあるが、この約束はその後も二人を動かす動機になっていたことが「グッドナイト・パープル」から読み取れる。
『みんなを笑顔にするグループ』の正体がセブンスシスターズなのかはエピソード内でははぐらかされてしまうが、セブンスシスターズが結成される前からニコルとミトの中には理想とするアイドル像が明確にあったと考えていいだろうし、それがアイドルを目指す一義的な動機だったと考えられる。
(EP1.0~ EPISODE.1.5-023 「グッドナイト・パープル」後編より)
2. 二人の理想と初期楽曲のギャップ
『みんなを笑顔にする』ことが羽生田ミトの夢であるという前提で『WORLD'S END』という楽曲と向き合ってみると、どうもそこにはギャップがあるように感じる。
もちろん、激しくカリスマ性のある楽曲である。当時のセブンスシスターズ楽曲に魅せられて、越前ムラサキや瀬戸ファーブが音楽を志すことになったという一面もあるようである。
しかし『みんなを笑顔にする』という方向性とは少し異なるようにも感じる。歌詞を見ると、「この声が誰に届かなくても」「I just want to scream at you すべてじゃなくていい」というように、届く相手に届けばいいという歌詞に見える。言い換えるなら、届かなかった相手は置いていくというスタンスとも取れてしまう。 それ以外も、どこか痛切で荒々しい印象を受ける歌詞とメロディである。
こうしたミトたちの理想とのギャップは、後の楽曲である『SEVENTH HAVEN』と『FALLING DOWN』に関しても同様に感じられる。
『SEVENTH HAVEN』のMVでは、「IDOL DESTRUCTION」という文字が登場する。直訳で『アイドルの破壊』、『アイドルの駆除』である。歌詞を見れば「もう聞き飽きたの同じような言葉は」「予定調和の世界なんて必要?」と歌っており、非常に攻撃的な印象を受ける楽曲である。
『SEVENTH HAVEN』発売時のインタビュー記事においては茂木氏も「狂気」だったり「怨念」といった穏やかではないワードを出している(「Tokyo 7th シスターズ」特集 茂木総監督 & kz(livetune)対談 (1/4) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー)。
また、自分はリアルタイムでは見ていなかったが、『SEVENTH HAVEN』発売前にはTokyo 7th シスターズのHP上にキャラクターたちのチャット画面が登場したようである。これを見るとムスビと思しき人物は「解散前とデビュー当時は違っていた」と述べており、ロナと思しき人物は「スゴくカッコよかったというか……少し怖かったというか……」と述べている。セブンスの大ファンであるロナに「怖かった」と評されてしまうのは、『みんなを笑顔にするグループ』から逸脱しているように感じる。
こちらが昨日更新された公式HPの動画です。
— 「Tokyo 7th シスターズ」公式 (@t7s_staff) 2015年12月31日
そして間もなく…#t7s #ナナシスhttps://t.co/IE3MQIcSjj
3. 無数のアイドルが蔓延る2030年
ミトの理想とセブンスシスターズ初期の楽曲の間にあるギャップを考えるときに、当時のアイドル情勢というのが一つの鍵になるのではないかと思う。「EPISODE.2.0-001:ようこそTokyo-7thへ!」によれば、2026年に特別芸能人格支援法令という法令が制定されたことが明かされている。アイドル活動を行う組織に対して政府が金銭や活動面で優遇するという内容の施策である。これによって数多くのアイドルが誕生、アイドル繁栄の時代が生まれたことが伺える。
EPISODE.KARAKURIでは、そんな当時のアイドルシーンを支配人が語っている。決して魅力的とは言えないアイドルが溢れる時代。アイドルの限界。そんな時代を打ち壊したのがセブンスシスターズだったと。
(EP2.0~ EPISODE.KARAKURI 第6話「兵どものイト」前編より)
特別芸能人格支援法令によって、有象無象のアイドルが跳梁跋扈する状況を、羽生田ミトは危惧していたのではないかと考える。それはライバルとなるアイドルが多いということよりも、聴衆の感覚が麻痺している、虚構に踊らされている状況への危機感である。ミトはそんな世界をまず一新しなくてはならないと考えたのではないか。このことが、ミトの理想とするグループ像とセブンスシスターズ初期の楽曲や振る舞いに見られるギャップの要因だと考える。
「自分を研くのに必死で氷みたいにガチガチな女の子になった」とニコルがミトを称していることからも、アイドルになってからのミトには苦悩の時期があったと考える。ルイの「ミトはもう一人じゃない」というコメントからも、一人で何か抱え込んでいるような様子があったのではないだろうか。その苦悩は『みんなを笑顔にする』という夢と、そのためにはアイドルを淘汰してトップに君臨しなくてはならないという二律背反によるものだと考える。
ニコルとミトの二人がメンバー4人と同時に会ったのか、あるいは1人ずつ会ったのか、何かしらのオーディションがあったのか、もしくは2人がメンバーを集めたのか、そうした出会いについては現状語られていない。だがセブンスシスターズが出会う頃のミトは、既に茨の道を進む決意を固め、「氷のような女の子」になっていたのではないだろうか。『WORLD'S END』の原型も既に完成していたかもしれない。だからこそルイは野心的な印象の『WORLD'S END』を羽生田ミトの音楽と称したのではないかと考える。
(EP1.0~ EPISODE.1.5-023 「グッドナイト・パープル」後編より)
4. WORLD'S ENDへのカウントダウンとSEVENTH STRIKE BACK
特別芸能人格支援法令によって麻痺した世界。それを踏まえて『WORLD'S END』という楽曲を見たとき、「All I want is break it for you again」の「it」とはまさにそんな2030年の世界を指すと考える。
個人的な推論を書くと、2026年の特別芸能人格支援法令以前に一度アイドルの衰退期があった。つまりこれが一度目のbreak。そこに巨大な力が働いて、テコ入れのように特別芸能人格支援法令が制定され、紛い物のアイドルが繁栄した。この世界をもう一度(again)壊す、リセットするという内容なのではないだろうか。
「I will never lovin’ you」や「I will never trust in you」におけるyouとは聴衆のことで、決して聴衆には屈しない、媚びないという想い。「I just want to scream at you」は、本物の叫びだけを届ける、訴えることで聴衆の目を覚ますという意味合い。商業主義に彩られた虚構のアイドルは、セブンスシスターズが全てぶち壊す。カウントダウンの末に訪れるWORLD’S ENDとはそのタイミングを指すのではないか。
カウントに関しては、『SEVENTH HAVEN』でも用いられている。こちらはカウントダウンではなく、カウントアップ。0までいったカウントがまた始まり、SEVENTH STRIKE BACKにつながる。直訳でセブンスの逆襲、つまりセブンスの世界の訪れである。『WORLD'S END』と『SEVENTH HAVEN』にはそういったリンクがあるように思える。
余談:セブンスストライクについて
SEVENTH STRIKE BACKは、「SEVENTH STRIKE/BACK」で区切った場合、セブンスストライクの再来という意味になる。この辺りは作詞のkz氏と茂木氏の間で異なる解釈があったようだが、茂木氏の口ぶりによればどちらの区切りでも成立するようである。
セブンスストライクの真相はまだぼやけているが、茂木氏とkz氏のインタビュー記事や『EPISODE.4U:ロスト・アイドルズ』を参照するに、「セブンスストライク=Tokyo 7thの大規模停電」で、それがきっかけとなってセブンスシスターズは有名になったようだ。ゲリラライブ的なものが行われたように推測できるが、そこで披露されたのが『WORLD'S END』なのか、未だ発表されていないデビュー曲なのかは断言できないところである。
5. FALLING DOWNと贖罪
繰り返しになるがこうしたやり方はミトの理想に反すると言える。みんなを笑顔にするという夢を持つミトにとって、既存のアイドルを淘汰するというやり方は決して本位では無かったはずだ。
ここで重要になると見るのが『FALLING DOWN』という楽曲である。アイドルを淘汰する存在として君臨するということ、手を汚す存在として堕ちていくことに対する罪と罰。
「君となら どんな罪も罰さえも抱きしめて離さないよ」という歌詞には、それらを受け入れてもなお、アイドルを一新するために歌うという強い意志が反映されているのではないかと考える。ここで言う「君」とは、幼少期の約束を交わしたニコルのことで、共犯者として堕ちていくという意味合いではないだろうか。言うなればこれは贖罪の楽曲なのである。
ミトには理想とする場所があるが、多くの人に音楽を届けるためには絶対的なトップに君臨する必要があって、既存のアイドルを淘汰しなくてはならなかった。『WORLD’S END』や『SEVENTH HAVEN』は聴衆の目を覚まし、トップに躍り出るに至る楽曲であるが、『FALLING DOWN』の歌詞には贖罪のメッセージが含まれていると。
結果的にセブンスシスターズは頂点に君臨し、彼女らの声が万人に届く環境が生まれる。デビューまでの楽曲は言うなれば足場作りであって、ここから遂にミトとニコルが目指す世界の再編が始まる。『WORLD'S END』で世界が終わり、そこから約束の場所へと進んでいく。こんなストーリーが背景にあるのではないかと個人的に考えた。
『FALLING DOWN』についての考察|テトラドライブ・ログ
『FALLING DOWN』に関して興味深い考察を書いている方がいらっしゃったので勝手ながら紹介します。「FALLING DOWN=堕ちていく」の主体について、ミトとセブンスシスターズの2パターンに分けて書かれています。自分が上で書いた解釈とは違う方向なのですが、こっちの方が説得力がある気もします。
6. 新しい世界とそれから
『WORLD'S END』から『SEVENTH HAVEN』を経て、セブンスシスターズは世界を再編する下準備を整える。『WORLD'S END』時点ではアプリ内コメントにあるように、「これからどうなっていくのかわからない」といったような手探りの感覚が見てとれる。実際はレジェンドと呼ばれる存在となり、ミトとニコルの理想である『みんなを笑顔にするグループ』を目指して、セブンスシスターズは躍進を進める訳である。
『SEVENTH HAVEN』以降の楽曲として現状発表されているのは『Sparkle☆Time!!』と『Star☆Gritter』であり、数は少ないものの、どちらもポジティブな印象を与える楽曲であると言える。特に『Sparkle☆Time!!』の1番の歌詞には「さあ駆け出していこう みんなが笑顔になる明日へ」とあり、ミトの理想が反映された内容である。
このことから、『SEVENTH HAVEN』以降は方向性の転換に成功したのではないかと考える。それまで曲名が全て大文字だったのが、大文字と小文字の混在になり、☆が入っているのも、もしかすると方向性が変わったサインかもしれない。
ミトの理想は実現に向かっていく訳ではあるが、その過程は決して生易しいものではなかっただろう。EPISODE.KARAKURIにおいて、ニコルは当時の自身が炎上常習犯だったと語っている。また、同エピソードでのナナスタに対するネット上のバッシングに関して、コニーが達観した対応をしていることからも、セブンスシスターズが世間からバッシングを受けることは少なくなかったのではないかと考えられる。
(EP2.0~ EPISODE.KARAKURI 第6話「兵どものイト」前編より)
(EP2.0~ EPISODE.KARAKURI 第3話「メーデー」前編より)
2032年にセブンスシスターズは解散ライブをもって解散するわけだが、これに関してはまだ謎が多いため語ることは出来ないだろう。「グッドナイト・パープル」によればそのときも色々あったようで、円満な解散ではなかったのかもしれない。『みんなを笑顔にするグループ』の顛末にはまだまだ奥深いエピソードがありそうである。
(EP1.0~ EPISODE.1.5-023 「グッドナイト・パープル」後編より)
作中の時系列では解散時の楽曲から順に過去に遡る形で、現実世界で楽曲が発表されているが、とうとうデビュー前まで遡ってしまったことになる。デビュー曲が未だに発表されていないことから、次回作はデビュー楽曲ということになるだろうか。解散前後の状況や、セブンスストライクの真相等もまだ謎に包まれているため、これからの展開が非常に気になる次第である。製作者インタビューなども公開されれば、もっと色々見えてくるかもしれない。
7. おわりに
以上、そんな訳で『WORLD'S END』について書くはずがセブンスシスターズ全般の話になってしまっている気もしますが、振り返るいい機会だったとしておきます。個人的な推察が存分に入っていて見当違いのことを書いている可能性もあるので注意されたし。考察というよりはifの提示みたいな感覚で見ていただけると助かります。
書いてきたように、『WORLD'S END』はセブンスシスターズの「これから」を予感させる重要な楽曲で、ギラついた野心的なエネルギーに溢れた力強い楽曲だと思います。ストーリーにおいても大きな意味を持っていると思うので、その辺り意識して聴いていったらまた発見があるかもしれません。
ここに書いたことの半分近くは把握してなかったり、読んでたけど殆ど覚えてなかったりで、ネットで調べたりアプリのエピソードを読み返したりしつつ書きましたが、色々と細かく伏線めいたものが張り巡らされているなという印象です。セブンスシスターズ関連のストーリーは奥深いですね。繋がりが見えてくると、このコンテンツの作り手の凄さを改めて感じます。いったい何木伸太郎なんだ。
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公開時ツイート
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— くろろ (@0get_kuroro) July 31, 2017
支配人向けの7000字くらいある文章です
■参照・関連ページ
・ 『FALLING DOWN』についての考察|テトラドライブ・ログ
・「Tokyo 7th シスターズ」特集 茂木総監督 & kz(livetune)対談 (1/4) - 音楽ナタリー 特集・インタビュー