恩田陸の『蜜蜂と遠雷』

3月の中頃に読んだ。

ブックオフで安かったのでハードカバー版を買ったのだが、二段組で530ページというなかなかのボリュームだった。持ち運びが億劫なので家でしか読まなかった結果かなり時間がかかった。今は上下巻で発売されているようなのでそちらにすればよかったと思う。それか電子書籍。

ピアノコンテストが作品の舞台。群像劇的に様々な人物の目線からコンテストを描くことで、繰り返される1次予選、2次予選と新鮮なままのテンションで続いていく。多角的にコンテストを描写することで単調になりがちなのを回避していた。演奏を終えた、もしくはこれから演奏を行う予定であるコンテスタントの目線からも演奏が描かれる。コンテストが進むに連れてコンテスタントの境遇も当然変化していくので、その心理描写が面白かった。

音楽というものへのリスペクトであったり捉え方も美しい。音楽が狭い世界に閉じ込められてしまっている、そんなテーマが描かれた。音楽とはそもそも自然の音から始まったものだが、今では人間の窮屈な認識下に押し留められている。作中でギフトと称される風間塵はそんな音楽を救い出さんとする。

音楽に対してストイックに(側から見たらの話であって、本人からすれば日常なのだが)向き合う存在、その描き方もかっこ良かった。音楽を芸術と捉えれば、文芸に歳月を捧げてきた恩田陸さんの筆致に説得力が漲るのも納得するところである。あくまでも小説なのだが、芸術に関して説いた文章でもあるように感じられた。

映画化されているようだったが含め関連情報を入れないようにして何とか読み切ることが出来た。心象風景の描写が非常に多い、というか大半がそれである。拙くても自分自身の脳内で風景を描きながら読むのがこの小説の醍醐味であって最も適した向き合い方であるように思う。他人によって解釈し映像化されたそれを見てしまうとどうしても引っ張られてしまう気がしてならない。

と、ここまで書いた上で映画を観てみた(Prime Videoで400円だった)のだが、これが予想に反してというか非常に良かった。もし毒にも薬にもならないような映画化だったら残念だなと覚悟していたのだが、原作とは大きく異なるアプローチが随所に見られて楽しかった。群像劇なので誰を主人公にしても成立する物語と言えるが、そのチョイスや見せ方含めて非常にいい映画だったと感じる。上述した心象風景の描写に関しても、やり過ぎていなかったのが良かったと思う。

『祝祭と予感』という後日談的な続刊があるようなので今度読むつもり。

 

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(上) (幻冬舎文庫)

  • 作者:恩田陸
  • 発売日: 2019/04/10
  • メディア: Kindle版
 
蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)

蜜蜂と遠雷(下) (幻冬舎文庫)

  • 作者:恩田陸
  • 発売日: 2019/04/10
  • メディア: Kindle版
 
蜜蜂と遠雷

蜜蜂と遠雷

  • 発売日: 2020/03/08
  • メディア: Prime Video