『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか?』の話

内容(「BOOK」データベースより)
“人間”は規格外の“獣”に蹂躙され、滅びた。たったひとり、数百年の眠りから覚めた青年ヴィレムを除いて。“人間”に代わり“獣”を倒しうるのは、“聖剣”と、それを扱う妖精兵のみ。戦いののち、“聖剣”は再利用されるが、力を使い果たした妖精兵たちは死んでゆく。「せめて、消えたくないじゃない。誰かに覚えててほしいじゃない。つながっててほしいじゃない」死にゆく定めの少女妖精たちと青年教官の、儚くも輝ける日々。

 

2017年4月よりアニメ化が決定している「終末な」シリーズ、あるいは「すかすか」シリーズこと『終末なにしてますか? 忙しいですか? 救ってもらっていいですか? 』。作品紹介などを見て(これは好みだぞと)思ったため、原作の全5巻を購入、先日読み終えました。なかなか珍しいライトノベルだったので簡単に紹介していきたいと思います。

 

何が珍しいかと言うと、全5巻を通して大きな起承転結を見せるというところ。 基本的にライトノベルというものは単巻ごとで完結していることが前提となっている。単巻の中で山場があり、ひとまずの結末があり、という構成が主流である中で、この作品はそうではない。

売れるかわからない、次巻が出せるかわからないという環境の下で、それは相当な冒険となる。最後まで行けば、単巻で無理に完結させていくよりも完成度は高くなるはずだが、完結しなければ意味が無い。そういった意味で、この冒険が出来たのは、作者に十分なキャリアと力量があったからだと言えるだろう。

 

そんな枯野氏が描く、綿密に練り上げられた世界観は見事。人類が絶滅し、多様な種族が暮らしている世界。その上で『終わり行く世界』が舞台となっているが、その状況において発生してくる政治的な思惑や、終末に抵抗するための組織、そのシステムなど納得出来る形で示されているところが流石。人類絶滅の歴史や、神話をベースにした多様な種族たちのあり方なども説得力を以って描かれている。

ちなみに枯野氏のHP上では1巻時点での設定資料集なるものが公開されている(http://kareno.moo.jp/works/sukasuka/materialNoteForRevealation.html)。

 

閉塞感溢れる世界観であるため、基本的に暗く鬱屈とした展開が続く。美少女もたくさん出てくるが、彼女らもまた重い使命を背負っており、読んでいて辛くなってくる内容になっている。決してご都合主義で万事がうまくいくようなことはない。あらすじに書いてあるのでネタバレでないと判断して書くと、彼女らは妖精(フェアリー)であり、終末に抗うために聖剣を駆使して戦場に赴く兵隊、妖精兵なのである。

しかしそんな世界で登場人物たちが抱くやるせない感情が丁寧に描かれているため、感情移入出来るし、そこが作品の魅力の一つと言えるだろう。主人公のヴィレムも欠落や未練といった弱々しさを抱えたキャラクターであり、昨今のライトノベルにはなかなか見られない深みを持ったキャラクターである。

文章も実力を感じさせるものになっており、随所で憎らしいテクニックを駆使した言い回しや段組み、構成等を見せてくれる。世界観説明の文章に関しても単調な設定の説明に留まらず、読ませるための工夫が為されている。また物語の序盤から伏線が緻密に張り巡らされており、読み返した際に様々な発見がある作りになっている。

そんな訳で良質で読み応えのあるライトノベルだと思います。数年後の未来を描いた次シリーズも刊行中とのことで、こちらもまた読んでいきたいところ。

 

暗い内容であり、難解な展開部分もあるので、アニメが成功するかはわからない。しかし枯野氏が監修を務めるということで、原作とかけ離れた内容になるという心配はなさそうである。

全5巻のボリュームは1クールに納まらない気がするが、キャスト情報を見ると終盤に登場するキャラクターの名前もあるので、構成を組み替えるなどして最後までやるのかもしれない。

来期は『サクラダリセット』のアニメも放送するということで、質の高いライトノベル原作アニメが並んで楽しみなクールである。