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久保ユリカ『ありがとうの時間』と『星の王子さま』の話

雑記 久保ユリカ
星の王子さま (新潮文庫)

星の王子さま (新潮文庫)

 

 

久保ユリカさんの3rdシングル『ありがとうの時間』についての話。

楽曲の概要や感想なんかについては別の記事を執筆済み。この記事では、『ありがとうの時間』の歌詞に登場するサン=テグジュペリの小説『星の王子さま』と『ありがとうの時間』の関連に特化して、感想だったり考察だったり意見だったりを勝手に書いていきます。

 


 別記事はこちら。↑

 

 

1.『ありがとうの時間』楽曲と『星の王子さま』について

『ありがとうの時間』の歌詞では、1番と2番で共に『星の王子さま』というフレーズが登場する。楽曲全体を貫くテーマは、タイトルでもある「ありがとうの時間」というフレーズに集約されているが、ここには『星の王子さま』において登場する王子とキツネのやり取りが密接に関わってくる。

 

以下、関連部分を引用。 

 

「さようなら」王子さまは言った・・・

「さようなら」キツネが言った。

「じゃあ秘密を教えるよ。とてもかんたんなことだ。ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。いちばんたいせつなことは、目に見えない」

「いちばんたいせつなことは、目に見えない」

忘れないでいるために、王子さまは繰り返した。

「きみのバラをかけがえのないものにしたのは、きみが、バラのために費やした時間だったんだ」

「ぼくが、バラのために費やした時間・・・」

忘れないでいるために、王子さまはくり返した。

「人間たちは、こういう真理を忘れてしまった」キツネは言った。

「でも、きみは忘れちゃいけない。きみは、なつかせたもの、絆を結んだものには、永遠に責任を持つんだ。きみは、きみのバラに、責任がある・・・」

「ぼくは、ぼくのバラに、責任がある・・・」

忘れないでいるために、王子さまはくり返した。

 

引用:【星の王子さま サン・テグジュペリ】 いちばんたいせつなことは、心で見なくてはよく見えない|本好き研修医の死生学日記 ~ 言葉の力は生きる力

 

『王子とキツネのやり取り』において登場する主要な人物は、王子、キツネ、バラの三人である。王子はかわいがって育てていたバラと喧嘩してしまい、住んでいた星を飛び出して様々な惑星を旅する。その過程で出会うのがキツネである。

やがて王子とキツネの別れが訪れた際に、上で引用したやり取りが行われ、キツネは王子に「大切なものは目に見えない」ということ、「バラと過ごした時間」こそが目に見えない「大切なもの」だということを教えてくれる。

 

「大切なもの」は総じて目に見えない。例えばそれは、絆を育んだ相手と共に過ごした時間。心の目で見なければそれらは見落とされてしまう。

名言や教訓として参照される有名な部分であり、歌詞も殆ど直接的に対応しているので、ピンと来た人も多いかもしれない。こうした引用があると歌詞に深みが増して聴き応えがある。

『ありがとうの時間』の「時間」とはまさに目に見えないもの。「思い出の分だけ」という歌詞の「思い出」もそう。作詞当初から『星の王子さま』が意識されていたのか、あるいは途中でベクトルが一致したのかはわからないが、歌詞の随所には『星の王子さま』のエッセンスが落とし込まれている。

見落としがちな「大切なもの」を胸に留め、思いを馳せ、共に育んでくれた相手に感謝の気持ちを伝える。『ありがとうの時間』はそういう楽曲であり、だからこそこの楽曲における「ありがとう」という言葉の真摯さ、誠実さ、切実さは、しかと受け止める必要がある。

 

 

2.MV(ミュージックビデオ)と『星の王子さま』について

MVについても別の記事で色々書いてる。久保さんの熱演やウエディング姿が見られたりと豪華な内容だが、もう一つ興味深いのは、『星の王子さま』との関連である。ということで、ここでも『星の王子さま』との関連について考えて生きます。

 

前述したように、『星の王子さま』内の『王子とキツネのやり取り』において登場する主要な人物は、王子、キツネ、バラの三人である。

星の王子さま』のストーリーとMVのストーリーを重ね合わせて見てみると、咲と咲の母親はすれ違いによって疎遠になっていることから、王子に当たるのは咲で、バラに当たるのが咲の母親という解釈が出来る。

さてそうなると、「キツネは誰なのか?」という疑問が出てくる。このことについて考えてみたい。

 

①キツネ=手紙

一つ目は、キツネは母親からの手紙だという解釈。キツネの役割を恣意的に抽出するとそれは、『大切なもの』の正体を王子に気付かせる(=仲直りのきっかけを与える)、である。

ということは、母親との時間を想って涙を流し、母親との和解を自身の中で行うきっかけを作ったあの手紙は、キツネの役割を果たしていると言えなくもない。ずっと持ち歩いていた手紙が数年の時を経て咲の元にキツネとして現われるという点では、結構ロマンチックな解釈だと言える。

 

②キツネ=咲

二つ目は、キツネは咲自身だという見方。冒頭のシーンで咲は葵(碧?あおい?)という女の子と会話をする。葵は母親と喧嘩をしており、仲直りの方法を咲に相談する。そこで咲は「素直に謝ることが大事だ」というアドバイスを行う。

この一連のやり取りのあとに咲は空を見上げ、MV本編がスタート。この演出からも、葵との会話が、母親との『時間』に思いを馳せる引き金になったと考えられる。

葵が王子、葵の母親がバラだとすると、咲はここで擬似的にキツネの役割を果たしている。そして、咲がキツネとしてアドバイスを行ったことが、自身が王子の役割を担っている「咲-咲の母親」の関係においてもヒントになったという見方が出来る。

厳密にはMV本編では声が入っていない部分なので持ち出していいのか微妙だけど、メイキング映像を見ると、咲と母親が式場で再会するシーンで咲は母親に「ごめんなさい、ごめんね」と言っていることが確認出来る。「素直に謝ることが大事だ」という女の子へのアドバイスが自分自身にも跳ね返ってきていると捉えられる。

複雑だけど要するに、咲は「葵-葵の母親」と、「咲-咲の母親」の二つの関係においてキツネの役割を担っているという解釈です。

これは見方によっては「キツネ=女の子」とすることも出来るかもしれない。

 

③キツネ=不在

最後は、キツネは存在しないという見方。個人的にはこれも有力かなという印象。①も②も決して直接的な回答を指し示してくれた訳ではなく、あくまでも咲が自分自身で気付くためのきっかけに過ぎなかったと捉えれば、キツネは不在ということになる。まあ殆ど捉え方とか角度次第なんですが。

深読みすれば、フィクションの世界では導いてくれる存在がいるけど、実際の世界では自分自身で「大切なもの」に気付かなくてはならない、というメッセージとも取れる。

星の王子さま』を引用した上でキツネを不在する、というのは相当に捻ってあるテクニカルな内容なので、流石にMVでそこまで難しい内容にすることは考えにくい。ただ実際問題、ドンピシャでキツネに該当する人物は登場しないので、もしかすると狙っている可能性はある。この辺り是非聞いてみたいけど、誰にどうやって聞けばいいのかわからない。

 

以上3パターンを考えてみた。個人的には②が有力というか、これが色々と腑に落ちるなという感じです。もちろんどれが正解というのはないと思うのであくまでも勝手な想像。「こういう解釈もアリじゃないか」というのがあったら楽しいので教えて下さい。

 

 

 

という訳で、『星の王子さま』を念頭に置いた上で『ありがとうの時間』について考えてみると、こんなのがあるんじゃないかというのを書いてみました。MVのところは無駄に深読みしてる感があるけど、こんな感じで見方を広げることも出来るんじゃないかなという提案みたいな感じです。

ちなみに2ndシングルc/w『記憶コロコロ』の「彼女の名前 名前はノスタルジー」という歌詞も、ヘミングウェイの「我々はいつも恋人を持っている。彼女の名前はノスタルジーだ。」という言葉からの引用だと思われる。『ありがとうの時間』と共にスムルースの徳田憲治さんによる作詞ということで、こういった引用を良く使う人なのかもしれない。

ただ、作品の根幹に関わる明確なモチーフがある楽曲は初めてだと思うので、色々と新鮮でした。色んな視点を持った上で改めて聴いてみたいと思います。

ちなみに実は『星の王子さま』はちゃんと読んだことないので間違ったこと書いてたらすいません。