米澤穂信の古典部シリーズの話
米澤穂信の『古典部シリーズ』を全5冊を読み終えた。
この『古典部シリーズ』は2012年、京都アニメーションによって『氷菓』 のタイトルでアニメ化された。個人的にも非常に好きな作品。この『氷菓』のアニメが最近ニコニコ生放送か何かで再放送していたのがきっかけで、原作に触れてみようという気持ちになった。
合間に別の本を読んだりもしたけど二ヵ月もせずに5冊読めた。ソフトなミステリということで一度読み始めると次が気になってサクサク進める。登場人物に目を向けても、ライトノベル的なキャラクター性があって個性的で楽しいし、文体や構成も読みやすい。
アニメで見たときに主要キャラクターである伊原摩耶花が好きになっていたので、摩耶花が出てくるシーンでは気持ち悪い笑顔を浮かべて段落を追っていた。
シリーズ四冊目の『遠回りする雛』はシリーズ唯一の短編集になっていて、これが非常に良かった。
収録作の一つである『チョコレート事件』で、里志と摩耶花の関係が色濃く描かれる。この一編は摩耶花の物語というより、折木と里志の物語だけど、全編通してもこのエピソードが心に残ってる。
折木と千反田の関係を描いた表題作『遠回りする雛』も、折木の微妙な心情の揺れを描いていて好き。
ミステリは事件が主役になるけど、このシリーズは事件を通して少しずつ登場人物の関係性だったり距離感だったりっていうのが変化していくところが面白い。それも、相手への理解を深めたり、誤解を解いたりといった、内面的で繊細な部分の変化っていうのがいい。
この『遠回りする雛』は短編ごとに季節が移り変わる構成になっている。シリーズでも1巻ごとに時間軸は移動するけど、短編でやるとそれが際立つ。そしてそれは、高校生活の三年間という期間の有限性を感じさせる。確かに時間が進んでるなっていうのが感じられる。
そこに上記した関係性の変化が加わってくると、かなりリアリティが出てくる。変化と時間の進み方のバランスが絶妙なんだと思う。この巻に限らずそれはシリーズ全体でも気を遣って丁寧に描かれてるんじゃないかと思う。
読み応えがあるというか唸ってしまうのは『遠回りする雛』と、あとは『愚者のエンドロール』の折木と入須のやり取りなんかも。『遠回りする雛』はエンタメ的にも面白いけど、そっちの方面では『クドリャフカの順番』が秀でていた。
『クドリャフカの順番』はシリーズで唯一、古典部四人の多視点で描かれる。千反田える嬢の地の文は読んでいるだけで楽しいし、摩耶花の地の文はね、愛おしい。料理対決のところは特に楽しかった。
エンタメに富んだ書き方も出来る一方で、シリアスなシーンや、核心でありナイーブな部分を描くときの緊張感というか毒々しさというものも持ち合わせているのが素晴らしい。ナイーブさに関しては『ふたりの距離の概算』で発揮されていた。その分だけあの巻は暗めで後味もあまり良くなかったけど。
まとまりが無いけど眠いので終わり。後味が良くないと書いた『ふたりの距離の概算』以降続刊が出てないので出て欲しい。